Arch Description Translation Project 他

Arch Linux の日本語コミュニティである Arch Linux JP Project では ArchWiki を始め、英語の Arch Linux ドキュメントの日本語への翻訳を行っていますが、今年から ArchWiki に加えて3つの翻訳プロジェクトを立ち上げたのでお知らせします。

  • Arch Description Translation Project
  • Arch Linux マニュアルページ
  • Arch Linux カーネルドキュメント

Arch Description Translation Project

簡単に説明すると Debian の Debian Description Translation Project の Arch Linux 版で、Arch Linux の公式リポジトリに含まれているパッケージの説明文の翻訳活動です。

Arch Linux のパッケージは本家サイトのパッケージ検索ページで検索することができ、同じデザインの検索ページを日本語サイトでも備えています。ただし、ミラーサーバーの pacman データベースからパッケージデータを作成しているため、本家サイトよりも情報が少なく、特にバージョンが上流と比べて古いかどうかを示す out-of-date フラグは本家サイト特有の情報となっています。

また、ドイツ語の Arch Linux コミュニティサイトである archlinux.de には本家とはまた異なる優れたインターフェイスの検索ページが搭載されています 1

日本語ウェブサイトにも何か特有の機能があると面白いと考えて、Debian で活発に行われているパッケージ説明文の翻訳 2 に肖って archlinux.jp のパッケージ検索ページに説明文の翻訳を表示する機能を組み込みました。

翻訳作業自体は pacman の翻訳にも使われている Transifex をベースとしています。1週間ごとに週末にまとめて新しいパッケージの説明文ソースを更新、それまでに翻訳された説明文をウェブサイトに取り入れる仕組みとしています。日本語以外の翻訳も可能で、パッケージ検索ページではブラウザの言語に合わせて適切な翻訳文が表示されます。

パッケージの数では膨大なコミュニティによって支えられている Debian に軍配が上がりますが、ユーザーが投稿できる AUR から頻繁にパッケージが上げ下げされる Arch Linux には他のディストリビューションにはないソフトウェアパッケージを見かけることもしばしばあります 3

新しいソフトウェアを見つけるときの土壌として、検索ページを活用していただけるといいかなと思います。また、Transifex のアカウントがあればすぐにプロジェクトに登録して投稿できるので興味があれば是非翻訳にご協力お願いします。

Arch Linux マニュアルページ

私は2012年頃から ArchWiki の翻訳作業に途中参加させていただいており、2013年〜2014年の間は本家の英語版から1日以上文章が古くならないように丸2年間更新を続けていましたが、2015年からは逐次的に更新しています 4

理由のひとつとしては英語版の4211ページに対して1602ページと、中身の質とカバー率についてはともかく全体的に進捗が進んで一段落したこと、私事の仕事の負担が高まり取れる時間が少なくなったことがあります。がそれらの些細な理由よりも、英語版と日本語版の性質の違いが大きかったです。

特にここ最近の傾向として英語版は整理整頓を題目にリファクタリングが頻繁にかけられています。原文ソースである英語版の文章の作業量はさほど大きなくても (セクションの入れ替えやページの結合・分散自体は MediaWiki の力を借りれば簡単)、比較を行いつつ整合性を取って追従する作業は2倍・3倍になります。さらになんとか追従した1週間後にあっさり変更がリバートされると心が折れました。

また、リファクタリングの一環として ArchWiki の対象とする物事を絞って、インターネット上に他の英語ドキュメントがある場合は ArchWiki から文章を削除するという作業がかなり進みました (大きいところではビギナーズガイドをまるっと削除など)。確かに英語視点ではドキュメントの整理整頓ですが、参照先のドキュメントに日本語版がないことも多く、そのまま追従すると欠損に近くなり判断に迷ってしまい手が遅くなっていきました…。

前者は能力不足を認めざるをえないですが、後者については前向きに捉えてインターネット上のドキュメントの日本語版をさらに翻訳対象とできないか考え、特にマニュアルページの存在を元に記事の内容が削られることが多いため、Arch Linux の全マニュアルページの日本語版の作成を開始しました

こちらのプロジェクトも Arch Description Translation Project における Debian Description Translation Project と同じくお手本があります。本家 ArchWiki の管理者が作成しているマニュアルページ集です 5。日本語版となる Arch Linux マニュアルページではウェブページとしての利用価値を重視して Sphinx で作成しました。ArchWiki と同じく、幅広く翻訳していきたいと思いますが、最初は Arch Linux に関連するページを先に手がけていきます。

Arch Linux カーネルドキュメント

マニュアルページと同じく、Linux のカーネルドキュメントも ArchWiki から頻繁に参照されているドキュメントです。同じ Sphinx で作成できるということで、マニュアルページのおまけ程度でカーネルドキュメントの日本語版のページを作成しています。

Arch Linux マニュアルページでは最終的に特に選抜をせずに全ページを訳すところを目指したいですが、こちらは主に ArchWiki からリンクされているドキュメントだけを選び取って訳す形になるかと思います。

奥付

上記のプロジェクト立ち上げに伴い、ArchWiki に投入できる作業量は更に減少する予定です。日本語版の ArchWiki の古さに眉を顰めている読者の方がいれば、編集に参加していただると幸いです 6

堕落的な私でも2年間は全ページを英語版と同じ最新状態に維持できたことから分かる通り、非常に簡単な作業です。ちょっとやる気がある人なら容易にできるはず。一日の終わりに英語版の最近の更新を見て、一日分の編集を反映させるだけで終わります 7

編集に直接参加する形が億劫であれば、どこかおかしいところを見つけて意見・提案していただけるのも大感謝です 8

脚注
  1. Arch Linux には各国ごとに様々なウェブサイトが作られていますが、特にドイツ語の Arch Linux ウェブサイトの存在は日本語のコミュニティサイトを作る大きなモチベーションになりました。

  2. https://www.debian.or.jp/community/translate/description-ja.html

  3. 特にビッグネームの新しいソフトウェアは割とすぐに公式リポジトリに上がってくる意気込みを感じます (一番乗りした Linux 版 Steam はライセンス問題にもなってしまいましたが...)。実際、Arch Linux のパッケージは活発なオープンソースプロジェクトの上位に食い込んでおり、community パッケージをメンテナンスしている一部の Trusted User の貢献量は著しいものがあります

  4. 何か明確に問題のある変更が起こったときに対処するくらいのゆっくりした動きに段々となっています。

  5. まだ日本語に訳していないマニュアルへのリンクはこちらの英語版に飛ぶように設定しています。全55614ページと ArchWiki と桁が違うドキュメントが収集されています。英語版が個人のドメインで運用されているのを真似て、kusakata.com ドメイン上に作成しました。

  6. ArchWiki の編集は誰でもウェルカムです。他のディストリビューションを使っている (Arch は使っていない) 場合でも編集に参加するのに遠慮は不要です (本家も同じ方針を取っています)。MediaWiki に慣れていない人のために貢献方法がまとまったページもあります。

  7. 毎日行うのがコツです。英語版にあわせて更新した次の日に編集箇所がリバートされるのが嫌で1週間分をまとめて定期的に日本語版に吸い上げる形に移行したところ、難易度が飛躍的に上昇して続行が困難になった経験から。

  8. エゴサでせっかく古いことを指摘してもらっている言及を見つけても、具体的にどのページが古いか書かれていないと宝の持ち腐れとなってしまいます。